■シニア猫は要注意!~甲状腺機能亢進症について~
2024/06/25 【未分類】
●シニアになってくると人も動物も何かしらの持病を抱えることが多いものですが、今日はシニア猫ちゃんに多く見られる病気の一つ、「甲状腺機能亢進症」についてお話ししたいと思います。
英国での大規模な調査によると、猫全体の2.4%、10歳以上の猫に限って言えば8.7%が甲状腺機能亢進症だったという報告もあります。甲状腺機能亢進症は獣医師が猫ちゃんの内分泌疾患で一番よく遭遇する病気なんです。
この病気は喉のところにある甲状腺と呼ばれる部分(人でいう喉仏のあたり)が、甲状腺ホルモンを作りすぎてしまうために起こります。
ほとんどが良性の病変で、甲状腺がんは全体の2%程度と言われています。
甲状腺ホルモンというのは身体中の細胞の新陳代謝を促す作用を持っているため、甲状腺ホルモンが過剰になるとエネルギー消費が亢進され、それによって軽いものから重いものまでいろいろな症状が出てきます。
場合によっては今まで以上に元気に見えてしまうこともあるので、発見が遅れがちな病気の一つでもあります。
臨床の現場でよく見るのは「元気だし、最近ものすごく食べるのに痩せてきたんです」と飼い主さんが病院に連れてくるケースです。
新陳代謝が活発になりすぎて、食べても食べてもエネルギーをどんどん消費してしまうことで痩せてきます。
●血液中のホルモン値を測定して診断
その他によく見られる症状としては、行動の変化、多飲多尿、嘔吐、下痢などがあります。攻撃的になる、落ち着きがなくなるという行動の変化はこの病気を疑うキーワードの一つになりますが、多飲多尿や嘔吐、下痢は他の病気でも良く見る症状です。
甲状腺ホルモンは全身の色々な細胞に作用するため治療をしないでいると心血管系や腎臓にも影響を及ぼします。アドレナリンやノルアドレナリン、ドーパミンなどの神経伝達物質も過剰になっているため、高血圧、頻脈(心拍数が速い状態)、神経過敏の状態が続いていることも少なくありません。そういう子が興奮しすぎてしまうと、循環不全や呼吸不全を引き起こして甲状腺クリーゼと呼ばれる危機的状況に陥り、急死してしまうこともあります。
甲状腺機能亢進症の診断は血液中のホルモン値を測定することで行いますが、上記の通り他臓器に影響を及ぼすことのある病気のため、この病気が疑われる時は全身をチェックする必要があります。猫ちゃんが病院に来て興奮している場合は、刺激をせずになるべく落ち着くのを待ってから診察を開始します。
大人しく体を触らせてくれる猫ちゃんの場合は触診で甲状腺が触知できることもありますが、物理的刺激によってホルモンが分泌されることもあるため、飼い主さんが喉をグリグリするのはやめましょう!
病院では1分間に240回以上の頻脈(脈拍数が速い状態)が認められることが多く、リラックスしているお家ではこれよりは回数は少ないにしても頻脈であることが多いようです。
●シニア猫に多い病気
甲状腺機能亢進症の治療方法としては日本国内では(1)内服薬、(2)外科的甲状腺摘出手術、(3)ヨウ素制限食、3つの方法が知られていて、猫ちゃんの性格や状態によってその子に一番あった治療法を選択するようになっています。
(1)(3)は甲状腺ホルモンの合成を阻害することで作りすぎを防ぐ方法になります。治療を中止すれば甲状腺は元の状態に戻るため、毎日の継続的な治療が必要になります。
(2)は外科的に摘出してしまうため、その後の合併症が認められなければ甲状腺機能亢進症に対する継続治療は必要ありません。ですが、もともとこの病気自体がシニア猫ちゃんに多く、そもそも全身の臓器の状態が良くないことが多いため、麻酔のリスクや合併症のリスクを考えた時には(1)(3)のどちらかで内科的治療をするケースが多いです。
●甲状腺機能亢進症は初期はよく食べるので元気に見えますが、放置すると死に至る病気の一つです。甲状腺ホルモンの性質上、だんだんと他臓器に影響を及ぼしてくるため、早期発見・早期治療が重要になります。おうちの猫ちゃんがシニアになってきたら、元気に見えても定期的な健康診断を受けるようにしましょうね。